靴の顔は?と聞かれてどの部分を思い浮かべるだろうか。
多くの方がトゥと答えられるのではないかと思う。トゥはシェイプやメダリオンのデザインやその有無など靴の個性が如実に現れる部分でまさしく靴の「顔」と呼ぶに相応しい。
しかし靴にはもうひとつ、構造上の「顔」が存在する。「フェイシング」と呼ばれるアイレット周りのことだ。フェイシングは、特に内羽根靴にとってはトゥと並び靴の印象を決める重要なエリアだ。
アイレットの側にステッチやパーフォレーションが施されることが多く、「アデレード
(Adelaide)」や「エドワードグリーン」が採用している「スワンネック」などもフェイシングの代表例である。
「アデレード」は竪琴型のデザインがレース部分周辺に配され、そのまま履き口、踵へと繋がるようになっている。通常パーフォレーションが配されるため、クォーターブローグ、セミブローグ、フルブローグなどと組み合わせられる。
曲線美を感じる優雅な佇まいでファンも多い。
竪琴型のデザイン部分のカーブの具合に作り手の個性が現れ、サイド部分の切り返
しが省かれることから技術的にも通常のオックスフォードに比べて難易度が上がる。
「エドワードグリーン」の「スワンネック」は今は無きイギリスのシューメーカー、「ピールアンドコー(Peal & Co.)」が採用していた「ピール・フェイシング」に由来していると言われている。
「ピールアンドコー」とアメリカの老舗ブランド「ブルックスブラザーズ」の
ダブルネームの既成靴は有名であるが、初期の頃は「エドワードグリーン」が製造を請け負っていたことが関連していると思われる。
ヴィンテージのイギリス靴やアメリカ靴にも見られ、大元がピールかどうかは定かではない。
美は細部に宿る。「フェイシング」とはまさに靴の美しさを左右するものと言えるだろう。
靴選びや靴を作る際に是非拘って頂きたい。