現在知られる最古の革靴はアルメニアの洞窟で2010年に発見された約5500年前のものだ。植物のタンニンで鞣された1枚革の牛革(所謂ベジタブルタンニンレザー)にライニングとして草を詰め、シューレースで足に固定出来るようになっている。ピラミッド建設より以前に革の鞣しの技術や現代の靴と共通する意匠が存在したことには驚きを隠せない。

時は進み、ローマ帝国時代に入るとコルクや鋲のついたレザーソール付きサンダルが登場する。身分や階級に応じて権力や経済力を表すような様々なスタイルが作られるようになった。そのため靴職人は注目を集め、とても人気の高い職業だったとされている。
中世に入ると「ターンシュー製法」(アッパーとソールを裏返しに縫い合わせてひっくり返す製法)が生まれ、水や土の侵入を防げるようになる。ターンシューは後述する「ウェルト」の登場する16世紀頃までヨーロッパ人の足元を支えた。
「ウェルト」とは靴のアッパー(甲革)とアウトソール(本底)とを縫い付ける細い革のことだ。「ウェルト」の登場は靴の歴史の転機と言っても過言ではないだろう。防水性や耐久性は格段によくなり、靴作りもより緻密に繊細になっていった。18世紀以降、それまでは左右対称に作られていた靴は、左右の足それぞれに形に合わせて作られるようになりここに現代の革靴の源流が出来あがった。
19世紀後半にはミシンが発明され、さらにアメリカではあの「グッドイヤーウェルテッド製法」が確立された。革靴は、大量生産が可能となったのだ。
そして「グッドイヤーウェルテッド製法」の普及で一躍世界的に有名になったのが英国はノーサンプトンの街である。それ以前から靴作りの街として英国内では知られていたのだが、新製法と知見、人材を駆使して靴の聖地とまで呼ばれるようになった。次回はそんなノーサンプトンの靴作りを深掘りしてみたい。